撮影の扉写真。カメラのモニターに映る被写体と撮影現場
同じ被写体でも、距離が変われば伝わる情報が変わる。

引き・寄りは、被写体との距離だけでなく、画面にどこまで入れるかの違いです。引きは場所と人や物の関係、中は動作、寄りは表情や細部を伝えます。この画面に入る範囲を、ショットサイズと呼びます。

きれいなアップを集めても、何をしているのか伝わらないことがあります。一枚ずつは良く見えるのに、つなぐと意味が分からない。

原因のひとつは、サイズが単調なことです。画面に入る範囲を変えると、同じ動作でも渡せる情報が変わります。

ここでは、引き・中・寄りの3つが、それぞれ何を伝えるのかを扱います。3種類を必ず使うという話ではなく、選べるようになるための整理です。

構える前に、伝えたいことを1行にする

距離の選び方は、伝えたいことで決まります。何を見せたいかが決まっていないと、その場でカメラを寄せたり引いたりするだけで時間が過ぎます。

撮り始める前に、次を決めます。

  • 伝えたいこと:この場面で何が分かればよいか
  • 主役:人か、手元か、物か
  • 動く範囲:被写体がどこからどこまで動くか

あわせて、レンズや設定で変えられる範囲も見ておきます。ズームのないカメラなら、自分が動いて距離を変えることになるので、動ける広さも確認しておきます。

引きで「どこで何をしているか」を見せる

机全体と作業する人が入る画なら、道具の位置や動作の関係が分かります。冒頭に置くと、あとから手元へ寄っても場所を想像しやすくなります。

広く撮るほど、余計なものも写ります。主役が小さすぎないか、背景に見せたくない情報がないかを確認し、必要な範囲に絞ります。

引きは説明の土台です。土台がないまま細部を見せると、見る人は最後まで位置関係をつかめません。

引きのカットは、長く見せなくて構いません。場所が分かれば役目は果たせます。土台さえ置けば、あとは細部に時間を使えます。

中くらいの距離で動作を追う

上半身や、両手と道具が入る距離。動作の始まりから終わりを追うのに使えます。手順を説明するなら、何を取り、どこへ置くかが見える構図を探します。

途中で手が画面から切れる場合は、少し広げます。細部の美しさよりも、見る人が動作を見失わないことを優先します。

動作と周囲の一部を同時に見せたいときに使いやすい範囲です。必要なサイズは作品の目的や場面によって変わります。

手元を説明するなら、斜めからの画と真上からの画を比べます。斜めからは高さや奥行き、真上からは机の上の配置を見せやすいため、伝えたい動作が隠れない位置を選びます。

寄りで「ここを見て」を伝える

ボタンの位置、ペン先、仕上がりの質感。小さな違いを伝えるときに寄ります。全体の中でどの部分か分かるよう、前後に少し広いカットを置きます。

寄った状態で動きが速いと、対象を追いにくくなります。固定して動作を撮るか、見せたい部分が画面内に残る余裕をつくります。

寄りだけでは位置関係が伝わりにくい場合があります。全体が必要な説明では引きを補い、細部だけで伝わる場面では寄りを生かします。

手元に寄るなら、動作の途中でピントが外れないか、本番前に一度通して確認します。撮影距離や機材・設定によって、ピントが合って見える範囲は変わります。

フィールドノート距離と、伝わる情報

引きと寄りは好みではなく、何を伝えたいかで選びます。

図の内容カメラと被写体の位置関係を示した図です。離れた位置からの引きは場所と位置関係を伝え、近づいた寄りは手の動きや表情を伝えます。同じ被写体でも距離によって伝わる情報が変わります。

どの距離から撮り始めるか

順番によって、伝わり方が変わります。目的で選びます。

  • 引き→中→寄り:場所から説明する。手順の紹介に向く
  • 寄り→引き:細部で引きつけてから全体を明かす。導入に向く
  • 中だけ:短い映像で、1カットに情報を集めたいとき

迷ったら、引きから始めてください。場所が分かる状態をつくってから細部に入るほうが、誤解が少なくなります。

全部の作品で3種類が必要なわけではありません。見せたい情報に合わせて、必要な距離を選びます。

決めた距離は、撮影前にカットごとに書いておくと現場で迷いません。書き方は撮影リストの記入例にまとめています。

よくある失敗と、その直し方

ひとつめは、寄りばかりを撮ってしまうことです。寄った画は一枚として見栄えがするので、つい集めたくなります。撮影中に「引きは撮ったか」と確認する習慣をつけます。

ふたつめは、距離を変えたつもりで、ほとんど同じ画になっていることです。少し寄っただけでは、つないだときに飛んで見えます。

カップを置く動作を、引き・中・寄りの3つの距離で撮ってください。引き→中→寄りの順と、寄り→引きの順に並べて、分かり方の違いを比べます。

同じ机作業を3サイズで撮った比較

机でノートに書き込む作業を、引き・中・寄りで撮った場合を比べます。架空の例です。

机でノートに書き込む作業を3サイズで撮った比較
サイズ役割撮る対象不足時の困りごと
引き場所と、人と物の関係を見せる机、椅子に座った人、周りの部屋どこで、誰が作業しているのか分からない
中動作の始まりから終わりを追う上半身、両手、ノートとペン何を取り、どう書き始めたのかを追えない
寄り表情や細部を見せるペン先と書いた文字、考えている表情何を書いたのか、どんな様子なのかが伝わらない

表の困りごとは、そのサイズがない場合に起きやすいことです。どのサイズが必要かは、その場面で何を伝えたいかで決まります。

撮って比べる練習

同じ動作を3サイズで撮り、説明できるか確かめる

ノートに一言書く動作を使った、編集部の練習案です。スマートフォンでも試せます。

  1. 机の位置と書く言葉を決め、同じ動作を繰り返せる状態にします。画面に個人情報を入れないようにします。
  2. 引きでは机と作業する人、中では両手とノート、寄りではペン先と書いた文字を撮ります。カメラを動かす前に録画を止め、位置を決めてから撮り直します。
  3. 引き→中→寄りの順に並べ、音を消して見ます。「どこで」「何をして」「何を書いたか」が分かるか確認します。
  4. 寄り→引きの順も試し、最初に伝わる情報の違いを書きます。切り替わる前後で手や道具の位置が気になる場合は、同じ動作の段階で切り替えて比べます。
  5. 説明に足りないカットを1つ選び、その役割を撮影リストに追記します。

記録には、既存の無料撮影リストを使えます。「サイズ」に引き・中・寄り、「役割」に伝えたいことを書き、撮影済みと再生確認を別々にチェックしてください。

無料撮影リストの記入例とCSVを見る

つなぎ目で手や道具が飛んで見えるときは、動作のつながりを確認する手順も参考にしてください。

サイズの基本的な役割の参考:Nikon「Establishing, Medium and Close-up Shots」(英語)。上の机作業と練習手順は、このメディア独自の例です。

ショットサイズとアングルの違い

ショットサイズとアングルは何が違う?

ショットサイズは、画面に入る範囲です。アングルは、カメラの高さや向きです。目線の高さから撮るか、上から見下ろすか、下から見上げるかを指します。同じ寄りでも、アングルを変えると印象が変わります。

サイズの呼び方は決まっている?

ロングショット、ミディアムショット、クローズアップのような呼び方もありますが、区切り方は人や現場によって違うことがあります。共有するときは、呼び名に加えて「机全体」「両手とノート」のように、画面に入る範囲を書いておくと確実です。

今日の1アクション約12分

同じ動作を、引きと寄りで1回ずつ撮る

2つ並べて初めて、どちらが必要かが分かります。撮る量はほとんど変わりません。

  1. 道具を持ち上げる動作をひとつ決める。
  2. 机全体が入る距離で1回撮る。
  3. 同じ動作を、手元だけが入る距離でもう1回撮る。

並べて再生すると、引きがないと場所が分からない場面が見つかります。